愛惜の日

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やがて足を止めたお姉様が男性に会釈しました。 男性もそうしました。 そのまま来た道をすたすたと帰っておしまいになる男性をしばらく見送られた後、お姉様は扉をコンコンコンと三度ノックなさいました。 それから返事を待たずに扉を開けると、中へお入りになっていくのでした。 私は辺りに誰もいないことを注意深く確認しながら扉の最寄りの窓に近づきました。 窓にはレースの窓掛けが配されていて、中はよく見えません。 頑張って目をこらしますと、奥にベッドと人影があるのがうっすらと分かります。 お姉様はどこでしょう。ベッドの上のどなたかと、お話をしてらっしゃるのでしょうか。 私はいつ自分が人目についてしまうかとそればかり気になりだして、そわそわと落ち着かなくなりました。 やはりこのようなことをするべきではなかったのだ……自分の行いを酷く恥じいり悔やみました。心臓の早鐘が限界に達して、もう帰ろう、そう思って壁から手を離しましたとき、 「猫みぃつけた!」 突然に窓が開いて、頭に明るい声が落ちてきたのです……。
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