赤身色の天井の下で

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「飲めんと言っておるだろう、たわけ!」 大きな声が赤身色の壁に反響し、私の耳に劈いた。 怒鳴るのは威厳のある正座で私の前に鎮座するこのお方、赤血球大名だ。 「赤血球大名! あなたには休息が必要だ。このままでは、ご主人の体より先にあなたの御身が朽ち果ててしまう!」 対する私は一介の風邪菌。 様々な人間の体を感染と共に渡り歩く放浪者である。 「我輩も、白血球も。まだ大丈夫だ。 十二分に戦える。 だから今日は、何卒お引き取り願いたい」 声色は野太く、威圧感のある低音。我輩と己を称し、天狗のように長い鼻を見せつけるその姿は、赤血球大名と言う名に恥じないものを感じさせた。 しかし 「あなた方は十五年間、酒一つ飲まず生きてきた。それは素晴らしい事だ! しかし皆様細胞諸君は、飲まねば生きていけぬ体では無いのか! 幾らこの長き年月を禁酒したからと言って、明日も飲まずと生きられる保証は無い!」 「だから言っておるだろう! 我らは今酒を飲むことは出来んと!」 私達風邪菌は、放浪者であると先述した。 私達は人の体に感染して潜り込む時、必ず大量の酒を運んでくる。     
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