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雨はキライじゃなかった。
けれどもぽたぽたと落ちてくる黒い”ナミダ”が、私とあのヒトの間をはなれさせてしまうように思えて……
だから早く空が晴れてくれたらいいのにと、そうねがった。
そうしたら、あのヒトの顔をもっとよく見れるのに。
あのヒトのやさしい顔をもっとちゃんと見れるのに。
でも、どんよりとした暗い雲が空いちめんにあって、だから私はこの雨がすぐにはやんでくれないってわかった。
雨のいきおいが変わらない中、見上げた先では、あのヒトは傘もささずにじっと立っている。
外はまだすごく寒くて、わたしはあのヒトがどうしてこんな所で雨に打たれながらじっとしているのかわからなかった。
わたしは自分がさしている傘――この前買ってもらったお気に入りのやつを、あのヒトに向けてさし出そうとした。
けれどわたしの背の高さだと、どんなにがんばってせのびしてうでを伸ばしても、あの人に傘をさしてあげることはできない。
ただ傘を大きく体からはなしたせいで、わたしの体にも冷たい雨がふりかかった。
そんなわたしを見て、あのヒトはいつものようにやさしく笑って、そして小さくかかんででくれた。
そうすると、わたしはあのヒトといっしょの傘に入ることができた。
でも傘が小さいせいで、あのヒトの全部を雨から守ってあげることができなかった。
それでもわたしはうれしかった。
何より、いつも出来るだけ大きく首をそらさないと見れないあのヒトの顔――
大好きなやさしいその笑顔が、今は私の顔とちょうどおんなじ高さにあったから。
けれど、少しだけいつも見ていた笑顔とはちがった。
雨でぬれたその顔は、いつもより元気がなくて……そしてさびしそうに見えた。
「泣きそう?」
わたしはよくわからなかったけれど、なんとなくそんな気がして、あのヒトにそう言った。
「いや、大丈夫だよ」
あのヒトはわたしの頭に手を乗せた。
いつもならそうして頭を撫でてくれるのに、今日はそのまま。
それからわたしの目をのぞき込んだ。
うす茶色の、いつもわたしを見守っていてくれるやさしい目。
でもやっぱり、その目はすごく悲しそうに見えた。
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