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メイドに変装した私がリーシャの手引きで部屋の外に出ると、見張り達は皆昏睡していた。
「夕食に遅効性の睡眠薬を混入しておいたのです」
何者なの、あなた!
頼りになりすぎる侍女に恐れを感じるけど、今はこのまま行くしかない。
夜の城をひた走って厩舎に向かうとレナードが待っていた。
レナードは私には勿体ない騎士だ。剣の腕もたち、顔も良く、性格もいい。何故私に剣を捧げてくれたのか、首をひねるくらいだ。
そんな、女性にモテモテでいつも爽やかな彼が、何故かやつれて鬼気迫る勢いで私に近づいてきた。
「姫・・・・・・っ! 御無事ですか!? 陛下に、何か無体な真似をされたりとかは・・・・・・つ」
「む、無体な真似? ちょっと待って、落ち着いて。私は大丈夫だから。それより、あなたの方こそいったいどうしたの?」
いつも落ち着いている彼らしくない。
まさか、私の騎士だからアランに虐められたとか? うわー、無いと言えないのが嫌だわー。
「いえ、私は平気です。・・・・・・御無事でよかった、姫」
レナードは心から安心したように柔らかい笑みを浮かべる。血走ってギラギラしていた菫色の瞳が、見慣れた優しい光をたたえた。
そしてすっかり落ち着いたレナードは、馬に荷物を括り付けながら、ヒソヒソとリーシャとないしょ話をはじめた。
「ーーいいですね? あなたは所詮騎士で身分が・・・・・・」
「わかっている。俺はあの方が幸せになられるのなら・・・・・・」
「・・・・・・ーリ様は必ず・・・・・・」
うーん、よく聞こえない。いったい何を話しているのかな。
私はお行儀悪く耳をそばだてながら、少し安心していた。
リーシャの手際が見事過ぎて不安に感じていたけど、レナードの様子を見ていると、味方だと思える。
それに、・・・・・・あの二人、もしかするともしかして?
私も年頃の女の子。リーシャとレナード、二人の親密な様子にとある可能性を思いつき、こんな状況だけどにまにまと眺めるのだった。
ーーこの時の私はまだ気付いていなかった。
あの優秀な弟アランがこんなに簡単に私を逃がすなんてあるわけ無いことを。
そして、元婚約者である隣国の皇子が自分の手の者を侍女として送り込んでいたことを。
・・・・・・全く気付いていなかったのである。
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