記憶のコラージュ

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記憶のコラージュ

僕は生まれてから10歳までを小平市で過ごした。 小平市で僕が住んでいたのは公務員住宅だった。 今はなくなって別の建物が建っているが、 当時は細長いその敷地に全6棟の集合住宅が建っていた。 1棟5階建て40部屋だったので、 満室になっていれば敷地内に240世帯が住んでいたことになる。 たしかに日中は常ににぎやかだった。 僕の一家は2号棟と呼ばれていた建物の1階に入居していた。 2号棟は他の棟に比べて子供の数が多かったような気がする。 公務員住宅に住んでいた同級生の半分くらいは2号棟の子だった。 あれは偶然だったのだろうか。 4号棟と5号棟の間に公園があり、幼い頃はよくそこで遊んだ。 ブランコや砂場のある公園で、近辺の幼い子供が集合するような公園だった。 夏休み中の朝のラジオ体操もこの公園で開催されていた。 公園の隣には住宅の管理人の家があった。 住宅内では住人たちによるイベントも開催された。 夏になると子どもたちのための肝試し大会があった。 子どもたちが住宅の敷地をぐるりと一周し、ところどころに潜んでいる オバケ役の人が脅かしてくるというものだった。正直、あまり恐くなかった。 僕の家のベランダの前に松の木が立っていた。 4階か5階あたりまで届くような大木で、僕はよくその木に登って遊んでいた。 僕が住宅を去ってまもなく、あの木は台風か雷かで折れたそうだ。 あれだけの大木なら、大騒ぎだったに違いない。 毎日、夕方になると豆腐売りが自転車に乗って住宅にやってきた。 母は常連客だった。僕はそれを見て、豆腐というのは豆腐売りから 直接買わないと買えないものだと思っていた。 あの公務員住宅で見た景色は僕の原風景だ。 一生忘れることはないだろう。
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