記憶のコラージュ

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この幼稚園にはネズミじいさんとネコばあさんという伝説があった。 物置部屋にはネズミじいさんという妖怪がいて、 階段の上にはネコばあさんという妖怪がいるというものだ。 ある時、僕は友人と二人で、ネコばあさんがいるという階段を上ったことがある。 だが上った先は事務室だった。 当時の僕にはわからなかったが、ネズミじいさんとネコばあさんの伝説は 園児たちが立ち入って荒らしたりしないためにつくられたものだったようだ。 つまらない結末だったが、今思うと探検したことは男の子らしい勇ましい行動で、 誇らしい気がする。 幼稚園に関する記憶はたくさんある。 友人たちと談笑しながら絵を描いたこと、コマの回し方を練習したこと、 気怠い運動会の閉会式、プールに顔をつけられずに戸惑っていたこと、 ただ雨が降っている園庭を眺めていたこと、 おゆうぎ会のさるかに合戦でウス役を演じたこと、 クリスマス会に園長先生がサンタクロースの扮装をして出てきたこと、 お泊まり会で女の子の裸を初めて見たこと、ひらがなを習う授業のこと、 幼稚園で飼っていた亀のこと、ある日、幼稚園の庭で遊んでいたら、 母が幼稚園の門の外にいて、僕に向かって笑顔で手を振っていたこと、 友人から「赤い車は日本に11台しかない」という話を聞き、 しばらくその話を信じていたこと、 毎日、母の自転車の後ろに乗って幼稚園まで行ったことなどなど、 些細なことばかりだが思い出すことがたくさんある。
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