記憶のコラージュ

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あかしあ通りをずっと北に行ったところに小平駅がある。 僕の住居からは離れているので、あまり馴染みの場所ではなかったが、 ときどき訪れることがあった。 父がここにあったおもちゃ屋で、ファミコンソフトの「魔界村」を買ってくれた。 幼い頃の僕にとって、「北の果て」だった。 僕が住んでいた住居のずっと東の方に「小金井公園」という大きな公園があった。 アスレチックスが豊富な公園で子供心をくすぐる場所だった。 家からやや距離があったので、それほど頻繁に行くことはなかったが、 僕の生活圏内で最大の公園で、他にない貴重な場所だと考えていた。 同じ2号棟に千夏ちゃんという女の子が住んでいた。 色白で気の強い子だった。 この子こそ僕の初恋の女性だった。 2号棟にはどういうわけか僕と同い年の女の子は千夏ちゃんしかいなかった。 女の子というのがどういうものかわからない僕にとって、 ただ一人の近くにいる女の子であり、 千夏ちゃんは僕にとってとても不思議な存在だった。 彼女が僕の初恋の女性だったと気づいたのはずっと後になってからだ。 小平を離れ、さらにずっと時間が経ってから、 自分はあの頃、千夏ちゃんのことが好きだったんだ、と気づいた。 学級委員などをやる積極的な性格の子で、クラスの女子のリーダー的存在でもあった。 向上心が強いのか、たくさんの習い事をしていた。 ベランダでインコを飼っていたことも覚えている。 あのまま成長していれば、今頃はキャリアウーマンになっていると思うが、 どうなっているだろうか。 千夏ちゃんについては気がかりなことがある。 小平を去った後、僕は一度だけ千夏ちゃんと顔を合わせたことがあるが、 そのとき、僕は彼女を失望させてしまった覚えがある。 それ以来、彼女が今も僕に悪い印象を持ち続けているのではないかという心配が どうしても消えない。 初恋の女性に悪い印象を持たれているというのはすごく恐ろしいことだ。 だが真意を聞くことはもうないかもしれない。 千夏ちゃん、好きだったよ。
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