【第一章】

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 情報を得るなら早い方が良いだろう……。夕食まで少し時間が残っているのを確認した俺は、身体を起こし、ベッドスタンドの引き戸に入れてあった二種類の小瓶を取り出した。  ――――仮死化剤と角回作用剤。どちらも通常では手に入らない、現代科学の最先端をゆく代物だ。俺たち生徒会の人間は、監視を効率よく行うためにこれらが支給される。  小瓶二つを目線まで掲げ、中に入った変哲もない錠剤を眺める。前回の観察対象であった林原めぐみと同様、今回も使うことになりそうだ。そんなことを考えていると、だしぬけに扉を叩く音が聞こえてきた。 「おーい、早馬ぁ、いるかー?」間延びしたというか、緊張感のない声音が届いてくる。  俺は慌てて小瓶二つを元の場所に隠してから、玄関に駆け寄り、ドアを開けた。声で分かっていたが、玄関先にいたのはやはり同じクラスの真藤だった。  俺よりも頭ひとつ背丈の高い長身に、刈り込まれた短髪。頑健な体躯で、初対面なら一歩距離を置きたくなるような風采の真藤は、朗らかな顔で「よっ」と陽気に手を振って俺を迎えた。 「相変わらず辛気臭い顔してるねぇ」真藤はからかうように喉を鳴らした。 「俺なんてマシな方だろ」俺はムッとしつつ、訝って尋ねた。「どうしたんだよ、急に?」 「ほら、あれあれ。めぐちゃんの骨が共同墓地に入ったっていうからさ、いっしょに墓参りに行こうと思ってよ」  そう言って、真藤は手に持っていたビニール袋を掲げて見せてきた。「ちゃーんとお見舞いの品も持ってるからよ、行こうぜっ」 「お見舞いじゃなくて、お供え物な……。ってか、缶ビールにチーカマって……。お前、ぜったい敬う気持ちないだろ……それ……」 「いやいやっ、それがさぁ! めぐちゃん、ここに入学する前は家でよく飲んでたらしいぜ? なんともまあ、発泡酒じゃなくてビールじゃないと嫌だーってこだわってたらしい」 「そうなのか……」  俺は呆れて頭を押さえた。なんとなく想像がつくあたり、余計に反応に困るというものだ。
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