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真藤が「めぐちゃん」と呼ぶのは、林原めぐみのことだ。真藤と彼女はクラスの中でも親しく、よく話をしていた。俺が真藤と関わることが多いこともあり、その繋がりで、俺と林原めぐみとはそれなりに仲が良かった方だったと思う。といっても、林原めぐみは持ち前の明るさで誰とでも親し気に交流していたので、誰が特別、というわけでもなかったのだろう。
「もう、一週間も経ったんだな」俺はつぶやく。
「そうだな。天国でも元気にしてっかねぇ。いや、地獄かもしれないな……。ってかよ、地獄に缶ビールとチーカマって届くのかね? エンマ様に取られそうだな」
「いや……たぶん、天国にも届かないと思うぞ。天国にビールってどうよ」
お調子者で空気の読めない真藤と話をしていると、彼女が死んだことなど嘘のように思えてくる。――――しかし、林原めぐみは死んで、この世界にはいない。それは純然たる事実だ。
この協和学園で命を落とした者の身柄は、親元へ送られ、葬儀等がとり行われることになっている。学園には込み入った家庭事情を背負った者も少なくはないので、親族と連絡のつかない者もいるが、総じてほぼ例外なく、骨の一部を学校のそばに併設された共同墓地に入れることになっていた。林原めぐみの場合も、遺体は両親の下へと運ばれたらしいく、彼女の地元で葬儀などを済ませ、一週間経った今日ようやく、骨の一部がここに届いたということだ。
「まあ、どうでもいいや」と真藤は言った。「とにかく行こーぜ、早馬」
真藤の誘いを承諾した俺は、部屋の鍵を閉め、彼の背中を追った。特に持っていくものもないだろうと思い、手ぶらだった。
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