プロローグ

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 林原めぐみの死で、当学園の今年度の死亡者は四人目。まだ五月の終わりだという事実を踏まえると、ひどく恐ろしくもなるが、この学校では当たり前だろう。  社会不適応者と診断され、俗世から爪弾かれた学生たちが集まるこの『協和学園』は異常だ。 精神を病んだ者、複雑な環境で育った者、自殺志願者――――多種多様な人間が、政策によってこの学園に集められている。監獄、精神病棟――――いくらだって例えが浮かぶが、そのどれもと違う。もっと複雑で、もっと闇が満ちている。それが協和学園だ。  そんな異端な場所で生徒会に入り、「死に近い」と判断された人間を監視する約目を務めている俺は、社会不適応者の烙印を押された彼ら彼女らよりも、いっそう異常な存在なのかもしれない。時々だが、そんなことを思う。 ※ 「やあやあ、監視対象を死なせてしまって悲しんでいるようだね、早馬君」  俺が生徒会室に踏み入れるなり飛んできたのは、からかうような皮肉だった。  部屋の奥を睨むと、生徒会室の最奥のデスクに悠然と腰かける生徒会長は肩をすくめて、俺の訪れを待ち望んでいたように不敵に笑った。 「会長、嫌がらせのつもりですか」不機嫌を隠すことなく、座るデスクの前まで歩み寄る。生徒会長は臆した様子など微塵も見せず、こちらをじっと見ている。 「彼女――林原めぐみについては、俺は最善を尽くしました。学園側から命令が下されてから二週間、彼女の言動には最新の注意を払いましたし、監視は怠っていません。それ以前から、いわれている通りにクラスの人とは積極的に関わりを持つよう行動しているし、かといって情報を漏らさないよう最善の注意も払ってきたつもりです」
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