プロローグ

4/6
前へ
/256ページ
次へ
「キミはあれだね、早馬君。真面目だね」と生徒会長は笑った。 「真面目でなにが悪いんですか。人の命がかかっているんですよ」  後半は絞り出すような唸るような声になっていた。人がひとり死んだというのに、どうして笑えるのか分からない。俺が苛立ちと嫌悪を隠さずにいると、意思を汲みとったらしい生徒会長は、こちらの顔を見て呆れたようにため息した。 「いやはや、すまないね」言葉とは裏腹に、語気はとても軽いものだった。「僕ら三年生にもなるとね、死に慣れ過ぎてしまうんだよ。これは褒められたことではないのだが、しかし、僕が入学して今日までに三十近い死人を出してしまったものだからね。毎度毎度、涙を流して悲しんでいるわけにはいかないのさ。――――分かるだろ? 悲しみに暮れるのは僕たち生徒会の役割じゃあないわけだ。生徒会は、校内の治安維持という至上命題を背負っているわけだから、死んだ人より、生きている方に目を向けなきゃならんわけさ」 「生徒会なんて、ほんとに名前だけですね」俺はぎりっと歯噛みした。「表向きは生徒会って名乗っていながら……本当は、ただ、学園側が『死に近い』と判断した人間を監視するだけの集団じゃないですか……」 「そうだよ。所詮、私たちは学園の犬だ。学園が何を思って生徒会を設立し、なぜ生徒を監視させているのか――――そんなことすら知らない。でも、考えてみたまえ。社会なんて、そんなものだろう? 仕事をする大人たちは、自分たちの働きがどのように社会に影響を与えているのか分かっていないくせに、汗水流して働いている。人間なんてみんなその程度さ。じつに滑稽だと思うだろう? でも、私たち生徒会だって、彼らと同じなのさ。私たちは何も知らないまま、ただ、学園の命令に従って動くしかない……そんな矮小な存在なのだよ」  生徒会長は恍惚とした顔で、歌い上げるように言った。 「ほんと、分かりませんよ、俺には……」胸が苦しくなって、思わず視線を逸らした。
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加