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「そう……みんな、何かにすがりながら生きています……」
「ああ、みんな必死だ。しかし、必死になるあまり、とても脆い。社会に絶望して、それでも何とか立ち上がろうとした者が多いというのは、実は、危険極まりないんだ。立ち上がろうとしている者が本校に送られてくるわけだが、そういう、懸命に足掻いている時期というのが一番脆いんだよ。懸命な時期に、なにかの拍子で折れてしまうと、人は簡単に絶望する。もう無理なんだと、厭世的になる。その必死さ、脆さを知っているから、私たち生徒会があるんだよ。……知っているかい、犬だってうつ病になるんだよ。犬を使った、学習性無力感と抑うつの心理学実験があってね、動物だって無力感を覚えるという結果を叩き出したわけだ。すぐに『生きている意味』なんてことを問うてしまう人間なんかは、犬とは比べものにならないくらい、ひどく脆いものなのさ」
俺は口を噤んで目を伏せた。返すべき言葉が見つからなかった。
国が「社会不適応者」と定めた者が送還される、協和学園――――ここにいる生徒は、皆一様に脆い。俺が高等部に進学して二ヵ月で、はや四人という死者が出ていることが、事実をありありと告げている。
「会長は」と俺は尋ねた。「助けれなかった人、いるんですか?」
「いるよ」生徒会長は寂し気に笑った。「それはもう、たくさんね……」
そうですか、と呟いて俺は黙り込んだ。
「ともかく、僕たちに休んでいる暇はないんだよ、早馬君。分かるだろう? 私たちは、学校の秩序の維持に努めなければならない。キミの監視対象……いや、林原めぐみ君が亡き人となったのは悲しかろうし、私も悼もう。しかし、悲しみに挫けている場合ではない。もう、学校側から次の監視対象者が送られてきているんだよ」
生徒会長はデスクの引き出しを開けて一枚の写真を取り出し、緩慢な動作でこちらに向けてきた。写真に写った人物を見るなり、俺の心臓はどくんと跳ねた。見覚えのある顔だった。
「次の監視対象者は『黒羽みさき』と『四葉すず』の二名だ、頼んだよ」
無情に告げた生徒会長の言葉が、頭のなかで、何度もなんども反響した。
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