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「ねぇねぇ、知ってる? 理科準備室に置いてあるホルマリン漬けを食べる男の話」
「またオカルトの話ぃ? あんた、この前は、使われていない美術室にある呪われた絵がどうのとか言ってなかったっけー?」
立ち話をする女子生徒の脇を通り抜けて、生徒玄関を出る。
放課後の校門付近では、帰寮する制服姿の生徒たちがちらほらと散見できた。だるそうに歩く者、鬱屈そうに俯く生徒――――反して、嬌声を上げたり談笑したりする者もいれば、自分の世界に浸ってひとりごちている奴もいるし、運動服姿で部活動に精を出そうとする輩もいる。
それは、「社会不適応者」の烙印を押された連中が集まる、協和学園の放課後の風景だった。
こうして目の前に広がる光景を眺めていると、ここが普通の学校のように思えてならない。いったい、彼ら彼女らのどこが、普通の人間と違うのだろうか……。中学校から通っている俺の頭に今さらながらそんな疑問がわくのは、きっと、会長との話で憂鬱な気分になっているせいだろう。考えを振り払うべく歩を速めて、俺はその場から立ち去る。
見張りの先生に挨拶をしてから校門を抜け、寄り道せずに帰路につく。全寮制である協和学園の男子寮は、学校を出てすぐ西側にある。門壁の向こう側に見える小ぎれいな建物がそれだ。男子寮は全部で三棟あり、第一棟の五階に俺が住んでいる部屋があった。
寮の玄関にたどり着くと、職務室のガラス越しに寮職員が「おかえり」と声を掛けてくれる。俺はできるだけにこやかに挨拶を返して中に入った。一階は食堂になっていて、二階以上が居室だ。食堂の奥からは夕食の香しい匂いが立ち込めているが、あまり食事を摂る気分にはならなかった。すべては生徒会長から耳にした話のせいだろう。
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