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「神崎さん、生まれました!」   祈りの静寂をかき消すかのように、若い女性の甲高い声が鼓膜を揺らした。真臼は小声で「ありがとうございます」とだけ言い、その看護師とともに足早に分娩室に向かった。何も照れていたのではない。まだ自分の感情の整理がついていないだけだった。 分娩室に到着するまでの間、すれ違う看護師たちに祝福の言葉をかけられた。先ほどと同じような対応をしながら進む。 やっと分娩室の前に着いた。その扉はとても厚く、実際に厚いのかどうかはわからないが、現世と隔てているようにも思えた。
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