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真臼は、十五年前に来ていた。 その日は、雲ひとつない、まさに晴天。とても暖かい。真臼は、そんな空を病院の中庭から眺めている。中庭といっても猫の額ほどの広さだが、いくつか花を見られるし、小さなベンチだってある。重苦しい院内にいるより、よっぽど良かった。ただ、さすがにベンチに腰かけることはできなかったので、中庭の端っこの方に立ったまま、空に目を向けている。 そして、何かに祈っていた。己だけを信じてきた真臼にとって、いわゆる神様のような存在に祈ったのは、このときが初めてだったかもしれない。
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