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カランコロンと心地よい鈴の音が響く。どうやら新たな客が来店したようだ。
「い、いらっしゃいませ。2名様ですね? こ、こ、こ、こちらの、ま、窓際のお席はいかがですか?」
黒を基調としたエプロン姿の若い女性が、ぎこちない笑顔で入店したお客を席へと案内する。
短く切りそろえられたショートヘアーは美しいブロンド。顔立ちも整っていて、スタイルも細身のスレンダー系。少し低めのハスキーボイスだが、落ち着いた雰囲気のこのカフェにはよくマッチしている。
にも関わらず、先程の引き攣った笑顔からは愛想なんてものは微塵も感じられない。
そんなウエイトレスの残念な案内には従わず、店内に入った男2人は彼女をジロジロと睨みつける。次第に他の客も何事かと男達の様子をチラチラと横目に確認しようとする。もちろん、直視などする度胸のある人は皆無なようだ。
「クッ……ハハハッ! 無様だなぁ! これがあの空の悪魔と恐れられた奴の成れの果てかよ!」
突然、男の1人が店内に響き渡る声で笑い出した。彼女を侮蔑するかのような眼差しで言い放った男は、次の瞬間には宙を舞った。
「あぁ、貴男方はそのようなお客様でしたか。なら……遠慮はいらねぇな!」
ウエイトレスが男の腹部に鋭い拳を入れると、高笑いしていた男は先程入ってきた店の入り口目掛けて豪快に吹っ飛んだ。
シンメトリーの綺麗な模様の設(しつら)えられた木造の扉は、男が激突すると無残にも音を立てて割れてしまう。
「お前もだ!」
もう1人の男が呆気にとられていると、懐に潜り込んだウエイトレスがアゴ目掛けて拳を一閃。あまりの威力に体が浮き上がり、スローモーションのように数秒間滞空した後、もう1人の男も仰向けで床に倒れ伏した。
しかし、彼女はそれでは納まらず、テーブルに足を掛けると、卓上に乗っている花瓶ごと男達の方を目掛けて蹴り出した。ガラスが砕ける大きな音とともに、寸刻(すんこく)前まで平和だった店内が見る影も無くなる。
男達はとっくにノックアウトしているにも関わらず、彼女は男達の胸ぐらを掴んでは顔面を殴り、やりたい放題。いつしか、店内の客も彼女のあまりの狂暴さに釘付けになり、暫くして場が凍り付いたかのように静まり返った。
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