空の悪魔

8/9
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「そうか、そうか。お前は昔からやんちゃで、手が付けられなかったが、そんなに空を飛ぶのが楽しかったか」 「やんちゃって、そんなに悪さしてましたか!?」 「悪さしかしてなかったろ」 「お前が言うな!」  カーライルは甲冑の兵士の肩を小突く。楽しそうに話しながらも、本題は忘れていない。つなぎの中から依頼されていた荷物を取り出す。 「陛下……これを」 「おや? まさか……この宝石は……」 「そうです。ヒーリングダイヤと呼ばれる、外傷程度なら立ち所に治し、病の症状も和らげてしまう宝石です。これは小さいですが、効果は本物です」 「どうやってこれを……?」 「申し訳ございませんが、それはたとえ陛下でもお答え致しかねます」  カーライルの瞳は淋しそうな色を湛え、それでも強く言い放つ。 「そうか……ありがとうな」 「はい。では、私はこれで……」 「お、おい! どこに行くんだよ!? お前の居場所はここだろ?」  部屋を出ようとするカーライルに、甲冑の兵士が慌てて呼び止めた。 「すまない」  カーライルはそれだけ告げて、足早に部屋を出て行ってしまった。甲冑の兵士が急いで追いかけようとするも、王に制止されてしまう。 「大丈夫。カーライルも、心はこの王国にある。今は何か理由があるのだろうて」 「理由……ですか」 「そう。お前も、カーライルも、血は繋がっていなくても私の大切な息子だ。だから、必ず帰ってくる。カーライルが帰ってくるまで、私も長生きしなければなぁ」  カーライルは、国王の部屋を出てすぐの廊下で影を潜め、涙を流しながらそんな国王の言葉を聞いていた。頬を伝って落ちる雫は、彼の胸元の膨らみに着地し、水玉模様を描く。  顔の骨格も丸みを帯び、一回り背が縮んだようにも見える。 「陛下……お元気で」  部屋の中には聞こえないように呟くと、誰にも見付からないように気を配りながらカーライルは城内を後にした。呟いた彼の声は、ハスキーではあるが、男性のものから女性のものへと戻っていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!