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いつも居ない
その日は夜7時を過ぎても気温が下がらず、時折吹く風も熱を帯びていた。
「あっちぃ~」
坂城康平はネクタイを緩めながら、家路を歩いていた。
________ たまにスーツを着ると、今日みたいな猛暑だからな~。本当にまいるよ。
スーツの下に着ているシャツも下着も、汗をじっとりと吸い込んでいる。通気性ナンバー1と言われる有名ブランドのインナーも、日中の気温が35度を超えてしまえば焼け石に水。
「早くシャワー浴びてぇ~」
そう愚痴をこぼすも、足取りは軽く、表情も明るい。その理由は、今日のコンペのプレゼンがうまくいったから。
「絶対、俺のが一番良かったよな」
思わず、そんな言葉が出てしまうほど改心の出来だった。
「なるほど、そんなやり方が!」
「いや~、知らなかったですね。どこでその情報を仕入れたんですか」
「このプラン、いいんじゃないの。当たりそうだよ」
クライアントの担当者たちが口々にそう言ってくれたセリフが、今も耳に残っている。このコンペに勝てば、坂城は4連勝。同期はおろか、2、3年上の先輩たちだって、ここまでの結果は出していない。20代としては目覚しい成果だ。
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