感心な子

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 その態度に苦笑しながらリビングに向かうと、そこに広がっていた状況に目を丸くした。部屋の中に取り込まれた洗濯物がきれいにたたまれていたのだ。タオルも、ハンカチも、早苗のシャツも、すべてきちんと。洗濯バサミも専用の箱に収まっている。 「……」  あっけにとられて、しばし言葉が出なかった。  普段から家事を手伝っている子であれば、何ら不思議ではないだろう。だが、生まれてこの方、沙耶が自分からこんなことをするのは初めてだった。早苗が「手伝ってよ」と言っても、 「ええ~」 「今? 私、ちょっと忙しいんだけど」 そう言ってブツクサ文句を言い、大して手伝わないのが佐久間家の日常だった。だから、まさか洗濯物をたたんでおいてくれるとは思わなかった。  ________ 雨でも降るんじゃないかしら。あっ、もう降っているか。  服を着替え、夕飯の準備を始めようと思い、手を洗う。だが、ふと手を止めて、  ________ 洗濯ものをたたんでくれたこと、もう一度ちゃんとお礼を言ったほうがいいかな。  だが、目に浮かぶのは鬱陶しそうにする娘の表情。  ________ でも……。  数秒悩んでから、一端、鍋の火を消して2階に上がる。沙耶の部屋のドアをノックし、 「沙耶、ちょっといい?」 「なに?」  低くて愛想のない声が返ってくる。遠慮気味にドアを開けると、またしても驚いた。てっきりマンガでも読んでいるかと思ったら、机に向かって算数の問題を解いている。     
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