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「今日の学校のプリント、そこに出しておいたから」
ダイニングの机の上を指差し、そう言う。
「わかった。ありがとう」
学校や塾からの提出物を、すぐに出すようになったのも最近の大きな変化だ。もちろん、それ自体は大いに歓迎すべきことなのだが……。
結局、沙耶は夕食の準備が整う夜7時まで、ほとんど手を休めることなく勉強を続けた。トイレのために1回席を離れただけ。
_________ この子、こんなに集中できるんだ。
これまでは早苗の前で勉強を始めても、手遊びをしたり、ノートに落書きをしたり。ときにはテレビのスイッチを入れようとすることさへあった。
そんな娘が一心不乱に勉強している。
「沙耶、夕飯の準備できたから、そろそろ片づけて」
「……」
無言で目も合わせようとしないが、とりあえず素直に片づける。
父親が単身赴任に出ているため、食卓はいつも二人だけ。沙耶が高学年になってからは、食事中に話しかけてくることは滅多になく、いつもラジオの音だけが響いている。
しかし、その日はめずらしく沙耶から声をかけてきた。
「ねえ、お母さん」
「ん?」
早苗は口に運ぼうとしていた味噌汁の椀を机に戻し、
「何?」
「わたし、目覚まし時計がほしいんだけど」
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