感心な子

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 玄関が乱暴に閉められる音に驚き、早苗は野菜を切る手を止めた。 「沙耶? 帰ってきたの? ねえ!」  玄関のほうに向かって声をかけるも返答なし。  ドタドタドタッ!  階段を駆け上がっていく音がする。 「はぁ~」  小さくため息をつくも、キッチンからは離れられない。まだ料理の途中だ。みじん切りにした玉ねぎとにんじんを熱したフライパンに入れる。菜箸で野菜を炒めながら、テーブルの上に置いた時計に目をやる  午後4時20分。  ___________ 学校が終わったら、すぐに帰って来なさいって言っているのに。  そのまま調理を続けていたが、2階にある娘の部屋からは何の物音も聞こえてこない。それでもしばらくは我慢していたが、時計の針が4時45分を過ぎたところでフライパンの火を消し、エプロンを着たまま2階に上がる。  2階の一番手前の部屋、そこが一人娘の沙耶の部屋。その隣が夫婦の寝室で、一番奥は夫の書斎。だが、夫は半年前から札幌に単身赴任しており、今は誰も使っていない。  早苗は、子ども部屋の前に来ると、躊躇なくドアを開けた。  娘はベットにうつぶせになって、マンガを読んでいる。服も着替えず、ランドセルも背中にしょったまま。早苗は思わず奥歯をかみ締める。     
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