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「今日はピアノがある日でしょ。早く準備しないさいよ。この前も先生に怒られたばかりじゃない」
「わかってる! 今やろうと思ってたの」
口を尖らせながらマンガを本棚に戻し、机の引き出しから楽譜を取り出す。しかし、その動作はノロノロとしており、なおのこと早苗をいらつかせる。娘の部屋にいると、いらだちが収まりそうにもないので、
「早く準備しないさいよ」
とだけ言い残し、1階に戻る。キッチンで調理を再開するも、どうしても時間が気になる。4時55分、5時00分、5時5分……。
沙耶は2階から降りてこない。
眉間に皴を寄せながら野菜を炒めていると、やっと2階から降りてくる足音が聞こえてきた。
________やっとか。
そう思ったのもつかの間、
「お母さん、鍵がない!」
「何? 何の鍵?」
「自転車の鍵! 机の上に置いておいたのに、ないの!」
「なんで、そんなところに置いておくの。壁のフックにかけておきなさいって、いつも言っているでしょ!」
「ねえ~、鍵どこ? 自転車がなきゃいけない!」
時計の針は5時10分を過ぎようとしていた。
「鍵はお母さんが探しておくから、もう行きなさい。本当に遅刻しちゃうでしょ」
「え~、歩いて?」
「だって、しょうがないじゃない。あんたが鍵をどっかにやっちゃうんだから」
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