感心な子

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 夜も9時に差しかかろうとする時間帯になってから、娘と言い争いはしたくなかった。  それが2週間前のこと。  晩秋の夕暮れ。 早苗は無言で家のドアを開け、靴を脱いで玄関に上がった。自分としては無表情を装っているつもりだったが、内面のイライラが顔に出ていたかもしれない。  ドカッ!  キッチンの椅子に腰を下ろし、しばらく腕組みをして虚空をにらみつける。テーブルの上にプリントはない。学校で何も配られていないのか、それとも沙耶が出し忘れているのか。後者だとしか思えなかった。  早苗は上着とストールを椅子の背もたれにかけ、階段のほうに近づき、 「沙耶! いるんでしょ。ちょっと話があるから降りてきなさい」 そう声をかけるも返事はなし。眉間のしわがさらに深くなり、階段を上がっていく。しかし、その途中で沙耶が顔を出した。 「何? なんか呼んだ?」 「今、何してたの?」 「勉強だよ。塾の宿題」  嘘に決まっている。どうせまたマンガでも読んでいたのだろう。 「ちょっと話があるから下に来なさい」 「え~、今、勉強の途中なんだけど」 「……」  沙耶の言葉を無視し、無言で1階に戻る。母が発する空気から何かを察したのか、沙耶もそれ以上は文句を言わず、後についてくる。 「そこに座って」     
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