感心な子

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「だって、ほかの子はもう習い事をやめて塾しかやってないのに、私はピアノの練習もしているんだよ。そんなの不公平、ずるいよ」 「ピアノはあんたが自分で続けたいって言ったんでしょ! そのときにお母さん、何て言った? ねえ、憶えてる?」 「……」 「塾もピアノも両方ともがんばるって言ったよね。それなのにピアノには遅刻するし、家ではマンガ見たり、テレビ見たり。そんな時間があるなら、もっとがんばれるでしょ」 「……」 「ねえ、聞いてんの」 「……うるさいなぁ~」 「こんな調子じゃ、もうピアノを続けるのは無理だからね。次の発表会は出ないって、先生に言うからね」 「お母さんが勝手に決めないでよ! がんばっているのは私なんだから。それに私がテレビを見ているときは、お母さんだって見てるでしょ。えらそうに言わないでよ」  そんな言い争いを1時間以上繰り広げたのが1週間前。  その日、降水確率は10%以下だった。 「雨の心配はないでしょう。乾燥しやすいので、火の元には十分に気をつけてください」  朝の情報番組のお天気キャスターは、年上の男性に好かれそうな笑顔でそう解説していた。  しかし、正午過ぎから雲行きが怪しくなり、早苗がバス停に向かう途中でポツポツと降り始めた。いつもの習慣でバックに折りたたみ傘を入れておいたので、雨に濡れる心配はなかった。     
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