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「最後くらい、負けても良いからちゃんと試合したかったな……」
俯きながらそう言う沙耶の顎から、雫が一つ。
慌てて顔を拭うと、沙耶は精一杯作り笑いをした。
「光弘が、私の分も戦って……」
濡れた睫毛の、無理に笑うその表情が愛おしいと思う日が来るなんて、微塵にも思わなかった。
ひらりと軽く沙耶をお姫さま抱っこで抱える顧問に、強い嫉妬が生じたのに気付いて、初めて彼女に対する気持ちを自身が知った。
それまでは、同じクラスで部活も同じ。
それに、自分がバレー部の推薦入学で東京に出てきたばかりで、彼女もまた親の転勤でこちらに来て間がなく、北海道でついこの前まで生活していたから田舎臭さが抜けきれずに、一方的に親しみを感じていた。
ただそれだけだと、思っていた。
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