幽かな不死

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 僕は、死なないらしい。  トラックに轢かれても、首を吊っても、コンクリに埋められて海に捨てられようとも、僕は死なない。まだ、この体になって数百年だけど、多分寿命もない。もしかしたら、どこかで寿命が尽きて死ぬかもしれないが、今のところは不死だ。  数百年、特に誰とも関わらずに生きてきた僕だけど、最近少し変わった奴がいる。 「ねぇねぇ。君は、今まで何をして生きてきたの?」  それが僕の不死性について知ってなお、隣できらきらと瞳を輝かせる彼女だ。  住む場所を持たない僕は、廃ビル化した建物の、元々は飲食店であった場所を住処にしていた。そこへ、”偶然”現れた彼女と出会った。今も、同じテーブルに座り、答えにくい質問をしてくる。 「特に、なにも」 「えー? ずーっと生きていられるなら、世界征服とかできそうじゃない?」    短く答える僕に、彼女は可愛らしく首をかしげ物騒なことを言う。   「出来るかもしれないね。でも、しない」  世界征服なんて冗談じゃない。どんな権力者であろうが、それを目指した奴の末路なんて相場が決まっている。死だ。僕は不死だから、良くて永久の幽閉、でなければ永遠のモルモット扱いだろう。そんなリスクを、僕は犯さない。 「ふーん。でも世界中のみんなと仲良くなってから、世界征服したらいいんじゃない? そうしたら、酷い事もされないよ?」 「100人いたら、100通りの考え方がある。あちらを立てようとすれば、こちらが立たなくなる。だから、不可能だよ」 「そうかなぁ? 100通りの考え方があることがダメなら、1人づつ洗脳して同じ考え方しか出来ないようにしたらいいんじゃない?」  これが、本当のおーるふぉー・わん! ニコニコとしながら、そんな事を言う彼女。  ……これだ。少しひやりとする。みんな仲良く世界征服。彼女は、そんな甘い事を言っておきながら、他人が積み上げてきたモノを簡単に踏みにじろうとする。無垢な笑顔を浮かべて。 「不可能だよ。全世界の人間を洗脳するのに、1万年あったって足りない。僕以外に、そんなに生きられる人間はいないよ」 「そっか、じゃあダメかー。残念」  そう言いつつも、それらしい様子を彼女は見せない。むしろ、機嫌良く鼻歌まで歌い始めている。横目で、それを見つつ僕は彼女に聞こえないように呟く。 「歪んでるね」
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