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「ま……前が見えない」
大判のビニールシート数枚に布製折り畳みイス。
何に使ったのかホームベース大の分厚いスポンジや超ロングホース、そして細々とした小物が入った某スーパー業務用手提げカゴ。(なぜここに……)
暮れかけた空の下、いつものクラブハウスではなく体育用具室への返却を頼まれた大荷物を両腕いっぱいに抱えて、彩香はおそるおそる歩を踏み出しつづけた。
嵩張ってるだけで大して重くなさそうだし、大丈夫大丈夫まっかしてー、と大見得切って一人で引き受けたまでは良かったのだが……
大げさではなく視界前方のほとんどが遮られている。
耳と気配を頼りに、他人にぶつからないよう、ようやく本校舎近くまで歩いて来ることができた。
ほとんど亀の歩みである。
「ううう、無理しないで二回に分ければよかったあ」
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
時間と手間を惜しんだつもりが、かえってグダグタの状況に陥っているのだから、自分の浅はかさには本当に呆れるばかりである。
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