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今度は何ゴトだと翔が訝しみ、侑希がわずかに驚いて見守るなか、すっと数メートル先の暗がりを指差して言う。
「ごめんっ。そっちに飛んでったストップウォッチだけ拾ってってくれる?」
ついでのように、しかし明るく歯切れよく頼む彩香の声に、三人が目に見えて固まった。
やや遅れてぎこちなく踵を返し草むらに向かったのは、蹴り飛ばし犯の美郷――。
拾い上げたストップウォッチから気持ち土草を払い除けて、彼女なりに急ぎ足で戻って来つつあるように見える。
そして。
うつむいたまま彩香に手渡したかと思うと、くるりと背を向け逃げるように走り去ってしまった。
「あ、ちょ……」
(おいおい、せめてお礼くらい言わせてよ……)
驚きでしばらく見開かれていた目をようやく細め、彩香はふっと口の端を緩めた。
ちょっ……待ってよ美郷ー、と追っていく友人たちの声を聞きながら。
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