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彼の言いたいことは何となくわかる。
始めて半年と少し。並み居る高跳び選手たちの記録に迫るどころか、かなり低い位置さえまだ満足に跳べていない。
でもフォームはいいよ、と最近褒めてもらえ、ようやく格好だけはサマになってきたあたりだ。
「越えなきゃいけない壁があるの」
「どこの? どこか脱走する予定でも?」
「ぶっ……あたしってどんな……。目の前に立ちはだかる人生の壁です! ――――なんつって。他にやりたいヒト居ないんだったら、って端っこで邪魔になんないように跳んでみたかっただけ。みんな優しくて今は堂々と跳ばせてくれてるけど。記録は――……有望な新人ちゃんが入って来たら即明け渡さなきゃいけない約束だし、ガツガツやってもねえ」
眉間にシワを寄せ、行儀悪くずずーっと残りのカフェオレを吸い上げる。
結局意味がわからないとばかりに侑希が柚葉に視線を送り、同じくわかりませんという仕草でサラリと黒髪を揺らして柚葉が苦笑していた。
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