5.扉を開けると

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 これは――冗談ではなくまずい……!  そう思った時だった。 「やめろ」  外の光が届いていない奥の暗がりから、低く抑えられた声が届いた。  この場に初めて響く声、だ。 「どうせチクりゃしねーだろ」 「えー、でもよ」 「ちょっと可愛いしほら……」 「面倒くせえことしてんじゃねえ」  億劫そうに紡がれる抑揚の少ない声に、彩香を押さえ込もうと四方から伸びていた手が離れた。  この中である程度影響力のある人物なのだろうか。  確かめようと暗闇に慣れてきた目を向けると、ベリーショートに切れ長の目が印象的な三年生男子。   二、三段しかない跳び箱に浅く腰掛け壁に凭れたまま、興味なさそうにこちらを眺め……たばこを(くゆ)らせていた。
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