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学校からの帰り道、公園でぼんやりしていたらいつの間にか辺りは薄暗くなっていた。
そろそろ帰らないと、そう思って俯いていた顔をあげると、赤い月と目があった。
美しかった。
不吉で恐ろしく、うつくしい。
それは私のこころに似ていて、だけど、比べようがない美しさを持っている。
まるで、あの作品のようだと思った。
私は美術部に入っている。自分ではそこそこ描ける方だと思っているが、コンクールの成績はパッとしない。
何かが足りないと思っていても、それがなんなのかはわからない。
漠然とした鬱屈をかかえ、今日も筆を動かしていた。
「わあ、凄い!」
小さな歓声が静かな部室に響いた。
視線を巡らせれば、部員の一人が描いたキャンバスに数人が見入っていた。
「山崎さんも、見て! 茅ヶ崎さんの、凄いよ!」
私が見ていることに気付いた部員が手招きする。
気分転換したかったところだ、ちょうどいい。そう軽く考えて私は茅ヶ崎さんのキャンバスの前に立ち。
強く頭を打ち付けたような衝撃を受けた。
美しかった。
荒々しく、繊細で、どうしようもなく見入ってしまう程に美しかった。
私のこころは砕けちり、ぶちまかれたプライドと傲慢が揃って甲高い悲鳴を上げる。それでもなお見つめずにおれない程、私を惹き付けてやまない魅了があった。
「茅ヶ崎さん、これ、本当に凄いよ」
また別の部員が絶賛する。人は、心から感動した時、うまく言葉に出せないものらしい。
小さな肩をすくめるようにして、茅ヶ崎さんが恥ずかしそうに笑う。
その微笑みを見た私は、身の内で何かがはじけ飛ぶ気がした。
「ねえ、山崎さんも、そう思うよね?」
その言葉に何と返したのかは、覚えていない。
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