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急に、今まで自分の中を占めていたものが腑に落ちた気がした。他人から見える自分を自分の中で偏らせた上で、誰も本当の私のことなど分かってくれないと決めつけていた。分かってほしくて泣きわめく子供よりも質が悪い。ひねくれた大人になったものだ。 「はは、末次。お前、意外と面白いこと考えてんだね」 「いや、やっぱ口悪いっす、井原さん」 どうやら病原菌に私も侵されていたようだ。他人のことが分からないように、きっと自分のことだってすべては分かっていない。それを分かち合うように、教え合うように、人と手を取り合う道があるのかもしれない。自分よりも一回り近く若い末次に、そんなことを教わるなんて思いもしなかったのも、年齢という偏見でものを見ていたからかもしれない。頭が悪いというのは訂正しよう、と心の中で頭を下げた。 「ところで、絵美ちゃん可愛いと思うんすけど、まだあんまり話したことないんすよね。今度シフト被るように店長にうまいこと言ってもらえません?」 「はぁ?」 ちゃっかりしているところも憎めない、なかなかいい性格をしている。やっぱりバカだ、と思ったことは口に出してもよかったかもしれない。 先ほどまでの嫌な疲労感が少しばかり薄れて、妙に晴れ晴れとした気分だった。曇りガラスの眼鏡(レンズ)はどうやら少しだけ磨かれたようだ。 今度、別れた彼と久しぶりに連絡を取ってみるのもありかもしれない。そんなことを考えながら、私は職場を後にしたのだった。
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