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中庭に続く廊下を小走りに駆け扉を開く。
屋外との一瞬の隙間は温度はもちろんの事、肌にふれるすべてが違って感じる。
むつみは静かに扉を開き、彼に気付かれないようベンチに腰掛けた。
彼女は少女のように浅はかだ。
まだ朝早く、他に誰も居ない空間において、彼がそれに気付かないはずがない。
彼は少年のようで利口だ。
人の視線を人一倍感じて生きてきたのだろう。すぐさま身構え猫の輪の中から立ち去ろうとする。
「診察ですか?」
しがみつくように振り絞ったむつみの声に何かを感じたのだろうか。いつもなら振り切るような場面だと思いながら、彼はそこに立ち止まった。
「ああ、腰痛持ちなんです。職業柄ちょっと」
腰痛など無縁のごとく伸びた背筋に思わず首を傾げそうになる。
「どんなお仕事を?」
自分に驚いた。
見ず知らずの人間の何かを知りたい感情など、これまで感じた事がない。
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