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「いい子だ……」
片手はまだ彼女を誘導しながら、空いた手は精一杯のご褒美として髪を撫で続ける。
元来”いい子”であるむつみにとっては、褒められるのは心地良く、またその時間は病魔から逃れられる一瞬でもある。
けれどそれは、ただ逃れているだけだと理解もしている。放っておけばエスカレートするだろう。
夫婦となって二年。出逢ってからならもう十年以上の時が経つのだから、彼の性質はよく判る。
「修哉さん、もう……」
やめてほしいと懇願する妻の潤んだ瞳に、修哉は我に返った。ここは院内だ。
「ごめん、むつみちゃん」
やはり、何より愛おしい妻を困らせるのは意思に反している。
修哉は息を整え、再び良き夫を演じる。
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