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彼女が初めて愛した男性は修哉であり、その初めて、も当然のように彼が手に入れた。
むつみがまだ十代の頃の事だ。それは愛した、とはかけ離れた優しい感情であっただろう。
新任教師の修哉は、当時から体調の思わしくなかった彼女の担任となるのだが、入院生活に入れば甲斐甲斐しくノートを届け、校内での出来事を話して聞かせた。
高校生活をろくに校舎で過ごせなかった彼女は血液を患っており、入退院を繰り返しながらも、彼の語る日常を自らに重ね物語に陶酔した。
年相応の恋愛など、忍び寄る死の影を理解すれば諦めるしかなかったのかもしれない。
そんな彼女を、計算があったにしろ無かったにしろ、彼は手に入れた。
いや、純粋な恋愛感情の果てとはいえ、やはりルールなどすでに守ってはいなかったのだ。
幸せは手にするが、裏腹に不安というものに付きまとわれる。命の期限を逆手に取ったような罪悪感も彼にはあるのだろう。
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