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「むつみちゃん、そろそろ行くよ。今日は遅くなるからもう来られないと思う。何か必要があればお母さんに言うんだよ」
先程までの出来事など無かったかのように、教師の顔に戻る修哉。襟元のネクタイに手を添えると、むつみは微笑んだ。
「行ってらっしゃい」
自由、そんな言葉が頭をよぎる。
見送った夫には、後ほど手を振って見せなければならない。
いつものように窓際に立ち見下ろすと、中庭には野良猫が集まっており、その輪の中心に見慣れない男性の姿が見えた。
「大きな、野良猫?」
あまりにも溶け込んで見えたせいか、不思議な錯覚が起こった。
彼があまりにも無邪気だから猫に見えた、などという事ではないだろう。
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