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むつみの生きる現実と彼の過ごす時間には、目を凝らすと空気の異なりを感じる。
離人感とでも言おうか。まるで夢でも見ているようだが、手元にふれるカーテンなら揺れているし、空に浮かぶ雲も流れを止めない。
間違いなく、これは現実だ。
けれど、ドラマみたいとはこの事だろう。
むつみは橙色のノートを手に取ると慌てて部屋を飛び出した。
小走りに廊下を過ぎ、砂糖菓子の風景を見送ると見えてくるエレベーター。そのボタンを押しては直ぐに階段を目指す。
『急がないと、ふれられなくなる』
目に映る光景ならお互いにまだ気持ちなどなく、ましてや恋愛に繋がるような出来事のひとつも起こっていない。
サインは、何処から落ちてきたのだろう。
あるいは、夢か、幻か。
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