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立ち去る寸前のところでむつみが目に留めたのは、彼の胸元のネームだ。
『百花の風』と刺繍されている。
彼が扉をくぐるや否やノートにそれを記した。大切な事は忘れないように書き留める癖だ。
ハッとするはずのドラマは一瞬で終わったけれど、むつみの胸には大切な一瞬が刻まれたようである。
そして、胸に抱いたノートは二つ見える。
忘れ物ですよと言う事なら簡単だが、彼女の少女の部分はそれをしなかった。
彼が慌てて取り残したノートには、きっと男性なら自分で見るのも恥ずかしいであろう詩が綴られている。
きっとまた会える。
感情に根拠はないけれど、それを手にした時に彼がどのような表情をして見せるか、むつみには期待しかなかった。
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