プロローグ

3/3
前へ
/100ページ
次へ
二度と訪れる事のない幸福。 これが、二人が望んだ痛みだ。快楽と引き換えにして歩み寄る死への恐怖と不安は、二人をより一層燃え上がらせる。 しかし万が一にでも、最愛の彼女のその命を、この手が奪っているとしたらと不安が押し寄せる。 そんな不安を彼女に悟られないように、男は喉元に刃をあてた。 「誰にも、渡さないんだから……」 この痕は、消えないで欲しい。 「ゆき、く……んァ………ッ!」 喉元に与えられた強い痛みは肩からゆっくりと下腹を滑り、彼女の全身に麻酔をかける。 他の誰にもふれさせないと約束をしたその場所は、むせ返るような甘い蜜の匂いであふれている。 今も、あふれている。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加