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広く縁取られた大きな窓の傍に腰掛けると、ちょうどそこに射し込む光が彼女の全身を包み込んだ。
大きな光の布が空から地上へひらひらと舞い降りて、まるで抱きしめているような幻想は、この場所が神聖である事を物語っている。
白く透けるような素肌を包みこもうと必死で伸びる光に、少々の心地良さを感じておいて、彼女はひとつため息を吐いた。
八木 むつみ(やぎ むつみ)には、儚くも命の期限が迫っている。
女性であるのだから、そんな残りの人生にハッとするようなドラマを重ねない訳でもなく、夢を見る事を忘れた訳でもない。
けれど、せいぜい手元のノートにそれを描くくらいのもので、その控えめな膨らみの中にある希望の、どんな小さな行動も現実に起こした事などない。
それほどに、この神聖な場所は彼女を縛り付けているのだろう。
唯一、命を紡ぐ事の出来る、この場所。
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