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「今は何を書いてるの?」
橙色のノートを埋め尽くす文字の数々。それらはむつみの心の声でもあり、できれば夫として、それには常に注意を払っていたい。
「野良猫の心の声……とかね。こないだから中庭にいるの。晴れると会いに行ってる」
彼女はノートに詩を書き綴っている。たわいもない日常の風景やその日起こった出来事など、ある意味バロメーターのようで、心の中を読み取る手段となっている。
「野良猫、ね」
こうして見舞う際には、彼女のノートから今の気持ちを感じ取り、出来る限りそれに寄り添うようにしている。
長い入院生活の中で、愛おしい妻が苦しむ事があってはならない。せめて、心だけは自由にと考えるのは優しい修哉らしい。
本当に、申し分の無い夫だ。
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