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それがいつから始まっていたのかは、よく分からない。
ただこの話を初めて聞いたのは一週間前、つまり10/5。
勤務先のチェーン店ドラッグストアで、店長が言いだしたのを聞いたのが初だった。
曰く――ニュースで聞いた話によると何やらおかしな病気が首都圏で流行ってて、一部の病院はパンク寸前らしい。詳しい情報は分からないそうだが、敏感に反応した客がとりあえず消毒用品を買いに走っているそうだ…という情報が本部から流れてきた、と。
別に珍しくもない。
ドラッグストアに勤めて数年、この仕事はそんな噂で店頭の商品を変える。
食中毒が流行った時にも同じような事をしていた記憶がある。急きょ、店頭の一押し商品棚は全て殺菌・消毒のスプレー一色に作り替えた。
そのニュースをその時点では見ていなかったものの、どうやら割と大々的に放送していたらしい。
棚を作り替えた途端、誰も彼もが待っていたかのように消毒スプレーを買っていった。
アルコール系消毒薬を買っていく者、塩素系を買っていく者、はたまた両方。少し前に流行ったノロウイルスの知識の残滓があるのか、塩素系消毒薬の売れ行きが良かった。次亜塩素酸ナトリウムで手を拭くウェットティッシュを探すご老人が数時間店内に居座った。彼がその使い方を正しく理解しているとは思えない。
専門家ですら原因不明と言っている謎の病気とやらに対して、市販の消毒スプレーを家に帰ってまき散らす彼らは、何やら安心して眠るのだろうか。
少しは自分の頭で考えないのだろうか。
この仕事をしていると、よくそんな事を思う。 』
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