第10章 あなたと二人きり

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プロの対応はするな、愉しめってずっと言われてるけど。そういうのも成立しなくなる。 そう考えるとプロの人ってすごいな。しみじみと実感する。それに応じた報酬は頂くにしろ、やっぱり我慢しなくちゃいけないことがいっぱいあるんだろうなと思う。その点うちのクラブは、勿論お手当は頂いてるけどそれだけで生活するにはちょっとぎりな程度。少なくとも東京で一人暮らししようと思うとすごい余裕ってわけにはいかない。だからみんな女の子たちも、学生以外は大抵他に仕事を持ってる。まぁバイトか派遣が多いけど。それくらいでトータルとしては充分な収入になるし。 そもそもほぼ全員が好きでやってる子だと思うから、愉しんでお金も頂いて、みんな満足してる様子だ。男性会員も皆優しくてあまりストレスもない。こんな環境があんな空気に変わっちゃったら多分殆どの女の子たちは逃げ出しちゃうだろうと思う。 ああいう他にはない場所を成り立たせるためには運営する側も神経を使って細心の注意を払ってるんだな、やっぱり…。 「夜里、何食いたい?」 せかせかと前を歩く加賀谷さんが振り向きもせずに尋ねてくる。わたしはちょこちょこ小走りになりながらその背を追いかけつつ首を傾げた。 「…食いたい、もの?」 彼はすかさず言い直す。 「俺が悪かった、訊き方を変える。…イタリアンと中華と和食、どれがいい?」 ありがとうございます。わたしは一生懸命距離を縮めようと速足で歩き続けながら考え、答える。 「んと、そうですね。中華。最近あんまり食べる機会なかったし」 「了解」 短く返答すると、足を緩めもせずにスマホをポケットから取り出して手早く操作し、何処かに電話をかけてる。この後すぐ、とか個室で二名で、とかいう言葉が雑踏の中でも耳に届いて首を縮めた。この人、わざわざ予約してる。 「別に、町の中華食堂でラーメンと炒飯と餃子でも大丈夫ですよそんな」 何とか距離を縮めて追いつき声をかけると彼はちらと振り向き、わたしの様子を見てやや足取りを緩めてから答えた。 「何言ってんだお前。デートに連れてってもらったこともない可哀想な奴にそんな酷い仕打ちできる訳ないだろ。ちゃんとしたもん食わしてやる、滅多にない機会だから。だいいち夜里、普段まともなもの食べてるか?なんか、お前が自分のためにきちんとした食事を用意するところが想像できない。コンビニか持ち帰り弁当が常食だろ、どうせ」
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