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図星だ。わたしは肩を窄める。まぁそれで何年もやってきてそんなに体調も崩さない自分の丈夫さも大したもんだと思うけど。そこでふと、最近わたしにきちんとした食事をさせようとする男の人が続けて出現してるなと思い当たった。たまたま偶然とは言え。
そんなに不健康に見えてるのかな。そう思うとちょっと不本意ではある。少し生活全体を改めて見直した方がいいのかもしれない。
加賀谷さんが連れてってくれた店は想定以上に高級な雰囲気だった。出迎えてくれた丁重な態度の店員と如才なくやり取りし、個室へ案内されて慣れた様子で平然とオーダーする彼を見るにつけ、わたしは内心で感嘆する。
「加賀谷さんってこういうとこ謎、実に」
「どういうとこだよ」
無理しなくていいけど、普段アルコールに慣れる機会ないだろ。俺と一緒の時なら何の心配もないからこういうチャンスに少しずつ慣らしておけ、と言われてほんの少しの紹興酒にちょっぴり口をつけながら思わず呟いた。彼は案の定僅かに眉を上げる。
「だって、見た目だけで判断したらまるっきり、自分の専門分野にしか興味のないPCおたくのエンジニアそのものなのに。こういう時の世慣れてる感半端ないし。そうかと思うと裏の世界っぽい匂いもあるじゃん。一体どんな人なんだろう、ってよくわからなくなる。全体が見えてこないっていうか」
「得体が知れない?…怖いか、俺のこと」
「えぇ?まさか」
尋ねられてぽかん、と彼を見返す。感情の波の見えない、意外に茶色く澄き透っているいつものその目をまっすぐに覗き込んだ。
「怖い要素なんか全然ないじゃない。いや、もしかしたら他の人にはそういう加賀谷さんの一面が見えることがあるのかもしれないけど。少なくともわたしにそれが向かうことはないでしょ。だからって無害な人物ってことにはならないけどさ、そりゃ。…誰か加賀谷さんから怖い目に遭わされてる人からしたら冗談にならない存在なのかも知んないけど」
「そんな奴いないよ、別に」
彼は言いたい放題のわたしの台詞にさすがに憮然として腕を胸の前で組んだ。
「んん、まぁ。それはわからないけど、本当のとこは。でも、自己中心的な意見を言わせてもらえばわたしに怖い思いをさせたり傷つけたりは絶対にしないってわかってるから。それ以外のことは判断する材料もないし、わたしには何にも言えない。でも、それだけで充分じゃない?」
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