第10章 あなたと二人きり

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今回もまたシンクに並んで立ち、お皿を一緒に片付けて。わたしの仕事の話とか、他愛もない世間話をしながら心の何処かで物足りない気持ちに駆られる。これで、『今日』は終わっちゃう…。 多分彼は前回みたいにわたしを抱くとそれが目的と思われるのが嫌で、触れるのを避けてるみたいに感じる。わたしは別にそれでも構わないけど。 どうせみんなの欲求の捌け口になってる身体だし、もともと。クラブの会員だけじゃない、黒服の男の子たちからだって。それが高城くん相手だからって特に問題はない。他の子から求められたって受けてるのに。 それとも。遠慮してるんじゃなくて、彼はそういう女には本来触れたくない人なのかも。あの時はさすがに目の前の刺激に打ち負かされたけど、潔癖な高城くんからするとあれは不本意な成り行きだったってことで、今後はそういうの無しの関係になろうって意思があるのかな…。 まぁ、だったとしてもわたしからして欲しいって申し出るのもどうかと思うし。ありか無しかは彼が決めることだ。そう割り切ろうってつもりではいるのに。 俯いて綺麗に拭いた皿を重ねながら小さなため息が漏れる。別に欲情してるって訳でもない。セックスしたいっていうのとも違う。なのに足りないって感じるのは何故なんだろう。わたしはこの人にどうして欲しいんだろう。 こんな焦燥には慣れていない。自分の気持ちを持て余す。どうしていいのかわからない…。 「次はいつなら都合がいいですか。…あの、またこうやって会ってもらえるならってことだけど。面倒とか嫌とかなら」 「いいの?これで終わりってことでも」 彼の遠慮がちな声がもどかしくて少し強い調子になってしまった。彼がちょっとたじろいだようにわたしに視線を向ける。 「俺とこうやって会うの、やっぱり面倒ですか」 「いやそうじゃなくて。…そういうことじゃないけど」 彼に背を向けて棚に食器を運ぶ。変な拗ねたような態度を取ってしまった。何だと思われたかな。 別にわたしたちは何でもない。一回(正確には二回)弾みと成り行きでしただけ。何か態度をはっきりさせなきゃいけない理由なんてどこにも…。 …いきなり背中からがば、と抱きすくめられマジで悲鳴をあげかける。っていうか!お皿! 「…あの、高城くん。食器しまい終わってからにして、真面目な話」 全身からざっと血の気が引いてものすごい動悸が止まらないじゃないですか。
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