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「なあ、宗助。あの子が誰かを教えてくれよ」
「そんなこと言われても、俺も知らねえんだよ……」
「そう言わずに、助けてくれよ。あの子が恋しくて、俺たちゃ夜も眠れやしないんだ」
恍惚とした瞳の男たちは、すっかり”あの子”とやらにほれ込んでいるらしい。”あの子”とやらが宗助の舟に乗り続ける限り、きっとこの男たちも無意味な江戸川の往来を続けるのだろう。
困惑しているうちに、宗助の胸もとからトンと地面に降りたミケが開いたままの戸口からどこかに行ってしまった。振り返れば、黄色い月も雲に隠れてしまっている。
(たまったもんじゃねえ……)
忙しいのは、まだ許せる。けれども宗助の至福のこの時間を、こんな風に奪うのだけはやめて欲しい。
「お前があの子の素性を聞きださない限りは、毎夜来るからな」
最後にそんな耳を疑うような言葉を残して、男たちはふらふらと宵道を引き返して行った。
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