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「道頓堀君、行っちゃったねぇ」
「馬鹿がいないと清々します」
翌日、心なしか盆吉ちゃんと綾小路さんがいつもより大人しく見えた。
松山市役所から来る予定の福沢さんは、もう少ししたら来るらしい。道すがら向こうの課長に頼まれている仕事を片付けてから来るみたいだ。
「課長、綾小路さん、お茶どうぞ」
私がお茶を出すと、ボカロの湯飲みを小指をたててフウフウと可愛く息を吹きかけて飲みながら、盆吉ちゃんが申し訳なさそうに呟いた。
「なるべく梶君には会わさないようにと思ってたんだけど、すまなかったね」
「いえ、別に気にしてませんから」
「梶君が言ったんだよ。自分と互角か同等以上の人間に成りうる人間で、鬼頭君……君と波長の合う人間は道頓堀君だってね。私としては、もう少し業務に慣れてからでも十分に間に合うと思ったんだがね」
金剛寺課長が眉尻を下げて喋る中、綾小路さんがさも不愉快そうにパチスロ攻略本を見ながら喋った。
「あっちの課長の言う波長がどうとか、あんまり関係ないと思いますがね。俺の力でも十分鬼頭を守れる」
へそを曲げた綾小路さんのままで福沢さんが此処にやって来るのも何だか可哀想な気がして、仕方なく愛想を振りまいておくことにした。
だって綾小路さん、機嫌悪いと外の職員ですら当たり散らしまくるから。
「ありがとうございます、綾小路さん。美姫、めちゃくちゃ頼りにしてますね」
秘技、鬼スマイル。
高級クラブのNo.1ホステスにも負けないくらいに自信があるこの私の笑顔。
これを見せるだけで、綾小路さんの機嫌はたちどころに治ってしまう。
「任せなさい」
私の鬼スマイルの後には、綾小路さんの顔が3割増しで確実に緩む。
簡単な人だと、つくづく思う。
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