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「……さん。鬼頭さんっ」
私の身体を揺り起こしながら呼びかけるその声のお陰で、血塗られた忌まわしい過去の記憶の夢は消し飛んだ。
「何だ、三下。騒々しい」
アイマスクとマスクを外してから、私は運転席側にいた道頓堀茜を睨み付けた。
「着きましたよ、松山市役所。ってか、アイマスクとマスクの二重装備って。芸能人じゃあるまいし」
「したくてしている訳ではない。三下風情に私の高貴な寝顔を晒したくないだけだ」
「はっ?どんだけ自意識過剰……痛っ」
「余計な口を開いている暇があったら、さっさと荷物を持って案内しろ。お前は今回、私のマネージャーとして来ているのだからな」
「鬼頭さん……だから今回は、定期の意見交換連絡会に鬼頭さんが指名されたから此処に来てるんでしょ。俺まで連れてこられる必要、全然無かったっていうか……痛っ」
相変わらず目上の者への口の聞き方が全くなっていない後輩の頭上に、容赦なく手刀を2度振りかざしてやった。
私の名前は鬼頭美姫。高知市役所にある四国八十八ヶ所安全対策保全課に勤務する国家公務員だ。
ついでに、隣りにいる草食系男子は道頓堀茜。私より1つ年下で、同じ課に所属する1番ぺーぺーの平職員だ。
月に1度、四国内にしか存在しないこの課は、各々の持ち場の臨時業務の現況報告をする為に、この松山市役所を訪れる。
松山市役所にいる同課の課長が、現時点において臨時業務最高責任者だからだ。
因みに臨時業務とは、市役所務めの人間が通常こなす内容ではない。四国八十八ヶ所の寺に作られた空海の封印を守るという仕事だ。
その封印のお陰で、異界に住む魑魅魍魎達の侵入を防ぐことができ、四国に住む人間は安全に暮らせているという訳だ。
うちの課の課長である盆吉ちゃんにも、数年前臨時業務最高責任者となるよう白羽の矢が立っていたらしい。けれど、堅苦しいのは苦手だからと盆吉ちゃんは役職に就くことを断ったそうだ。
「盆吉ちゃんが断ってなければ、一々此処を訪れる必要も無かったんだがな」
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