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茜の前で、ある可能性について私が今話したら、茜は私のことを何て思うだろう。
「理由は2つ」
梶恭一が私と茜をジロリと睨み付けた。
「1つは、道頓堀……お前がいつまでも幼稚なせいだ」
「なっ……幼稚って」
「それは私も同感だ」
「鬼頭さんまでっ」
先程から顔がひきつりまくっていた茜の顔が、更にひきつる。無理もない。梶恭一のその外見も内から発せられるものも、全てにおいて迫力があるからだ。
射るような鋭い瞳に、隙を微塵も感じさせないような雰囲気。公務員らしからぬ均整のとれた、無駄な脂肪が1つもないといった体躯にはスーツ姿がよく似合う。
こうして表の公務員としている時には、柔らかい色合いのスーツを着る人なのだと、ついどうでも良いことが頭をもたげた。
いくら柔らかい色合いのスーツ姿であろうと、この人から発せられるオーラは、きっと普通の人だって怖く感じるのだろう。
それなのに。
あの日、全身に返り血を浴びて私の目の前に立った黒いスーツを着ていたこの人は、全く怖くなくて。
顔つきも、その身体から発せられるオーラも。
それどころか、私はこの人に優しさのようなものさえ感じた。
あれは一体何だったのだろう。
梶恭一があの時私に見せた表情が、今も頭に焼き付いて離れない。
次に都庁の玄関口で出会った時には、彼は今日と同じようなとてつもない威圧感を放っていた。
「もう1つは……お嬢ちゃん。お前の力が強くなっている」
「……私の、力?」
「鬼頭さんの力が強くなったから臨時業務が増えたって、それどういうことですか?」
全く見に覚えのないことを梶恭一から指摘され、困惑してしまった。それは茜も同じだったようだ。自分の力がここ最近特別に強くなったとは感じなかった。
ただ、私は茜と違ってある可能性については心当たりがあった。
「私達2人に原因があると分かったから、呼んだんですね?」
「その可能性が高いから呼んだ。もっとも、1番の原因はお嬢ちゃん、自分だってことは分かるな?」
「……えぇ」
「ちょっと。何なんですか、一体。鬼頭さんが何したっていうんですか?」
梶恭一が私の方を見ながら、ゆっくりと核心をその口から紡ぐ。
梶恭一から語られた言葉を聞いていくうちに、茜の顔色がみるみるうちに変わっていくのを感じた。
その様子を隣りで時折見つめながら、私はただ黙って耳を傾けていた。
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