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松山市役所から帰る車中、ずっと外の景色を眺めていた。
夕陽が紅葉で色づいた山々を照らし、キラキラと輝く様が、遠い昔の温かな記憶を思い出させた。
幼い頃、父と母と3人で手を繋いでこんな光が射す季節に歩くのが好きだった。
茜色に染まる景色の中で、細長く伸びる影を見ながら、この時間が永遠に続くものだと信じて疑わなかった。
「あの……鬼頭さん」
「何だ、三下」
隣りで運転していた茜がおずおずと声をかけてきたので、振り向かずに頬杖をついたまま返事した。
茜の自分への態度は、今までのようにはいかないだろう。
梶恭一が、私の正体を明かしたから。
私が鬼と人間との間に生まれた異形の者だということを、知ったから。
「俺が渡しておいた護符では、抑えが効かなくなっている。そういう訳でお前の力を少し貰うことにするぞ、道頓堀」
梶恭一はそう言うと、茜の掌に私が持っていた護符を渡して自分の手と共に握らせた。
そして暫く真言を唱えた後で、その護符をまた私へと返した。
「これはお嬢ちゃん、お前が人であり続ける為に持っていなければならんものだ。だが、これは一時の気休めに過ぎん」
私の鬼としての力が増しているとのことだ。それは護符を通じて梶恭一が把握してるようだ。
「俺が幼稚と言ったのは、お前が何も知らずに、また自分の力を十分に引き出せずにいることに対してだ。お前がお嬢ちゃんのことや業務についてのことを今まで詳しく知らなかったのは、金剛寺さんの責任でもあるんだがな」
高知での臨時業務が増えている原因は、私の鬼の力が増したことによって、封印の穴の内側に潜む魑魅魍魎達の動きが活発化しているからだと梶恭一は言った。
「そういう訳だから明日から1週間、うちの課の人間と道頓堀、お前を交換人事させる。上と金剛寺課長には既に許可はとってある。その間、お前は表業務の合間に俺が直々に鍛え直してやる」
茜にそう言い渡した梶恭一の顔から、再び不敵な笑みが浮かんだ。
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